吉神あや

韓流彼氏 ‐第3章:夢物語の予感

2010/03/17 00:00 - 韓流彼氏

★(前回のあらすじ)日曜日のコンサートを控え、遥香はかつての恋の相手、スビンと過ごした日々の記憶を思い出す。

記憶の中の幼げなスビンは、成長してかっこよくなっていた。そしてコンサート当日…。

 

第3章:夢物語の予感

 

(え、めちゃめちゃかっこいい……!)

 

『MARIA』のコンサート。
数年ぶりに見たスビンは、信じられないぐらいかっこよくなっていた。
MCで話すその声は少し低くなっているけれど、でもモニターに映る無邪気な笑顔は
間違いなくスビンのものだ。

 

「日本にずっときたかった、これてよかった。ありがとう」

 

あの、片言だけど柔らかくて率直な言葉も、同じだった。

 

(スビン……!)

 

『MARIA』は4人組のアイドルだ。
スビンのほかに、ジェミン、ハヌル、ヒョンウがいるが、
メインボーカルはスビンとジェミンが務めている。
歌もダンスも日本のどのアイドルより引けを取らないぐらいかっこいい。

 

(すごい……)

 

会場内ではひっきりなしにファンの女の子の黄色い声援が飛び交う。
けれど、ちょっとだけスビンへの声援が多いような気もした。

 

(人気なんだな……)

 

たしかにスビンはあの時、日本語もよくわからなくて大人しかったけれど、
二人で話していた時はわかる。スビンはとても優しくて、いい子だった。

 

(これだけの女の子を虜にできるわけよね……)

 

もしかして、スビンは私のことなんか覚えていないかもしれない。

 

「すごかったね、遥香! スビン、あんなにかっこよかったっけ?」

 

「ね! かっこよかった……」

 

ステージから手を振り、バックステージへ消えるスビンを見つめながら、
あかねの声に応えた。

 

「あ、ねぇ。お前らこれからまだ時間ある?」

 

コンサートが終わり、私たちを誘ってくれた丸山くんが尋ねてきた。

 

「えっ、空いてるけど……遥香は?」

 

「うん、私もあかねも時間あるよ」

 

「コンサート終わったら楽屋に遊びに来ないかってスビンに
言われてるんだ。ゆっくり話したいから、って」

 

「えっ……!」

 

私は思わず声を上げてしまった。

 

(コンサート後のバックステージ!)

 

まさに、小説の中で夢見た世界だ。

 

「いっ、行きたい!」

 

「あっ、遥香行くの? じゃああたしも行くー」

 

「よし、じゃあ行こうぜ。ほら、これパスだから」

 

『MARIA BACK STAGE PASS』の文字が書かれたカードを
もらい、私たちはそれを首からかけて、バックステージに向かった・

 

(うそっ、夢みたい! ……スビンに、会える!)

 

覚えてなかったらどうしよう、という気持ちもある一方で、
きっとスビンも……私ほどじゃないにしろ、私との思い出を
大切にしてくれているはず、という確信めいた期待も胸の中にあった。

 

私はおそるおそるバックステージへのカーテンをめくり、
『MARIA』の楽屋に向かった。

 

「失礼しまーす、スビンの知り合いの丸山ですが……」

 

楽屋の戸をノックすると、はーい、という返答が聞こえた。
ドアを開けるとそこには、先ほどまでまぶしいステージの上にいた
『MARIA』のメンバーがいた。

 

(スビンだっ……!!)

 

夢に、妄想にまで登場したスビンが目の前にいた。

 

(夢みたい……!!)

 

「きてくれたんだ! ありがとう!」

 

その私たちの様子にいち早く気づいたのは、やはりスビンだった。

 

「スビン、誰?」

 

メンバーのジェミンが私たちの方を見て、スビンに問いかける。

 

「むかし、日本にホームステイしていたときに、おせわになったひとたち、だよ」

 

スビンは日本語でジェミンにこたえた。

 

「へぇ」

 

私たちが来た理由がわかると、不審者ではないと安心したのか
メンバーは興味を失くし、スビンだけがこちらに向かって歩いてきた。

 

「今日はありがとうな。すごくかっこよかった。
こんな風に頑張ってるなんて驚いたよ」

 

丸山くんはなるべく簡単な日本語を選んで、スビンにお礼を言った。
スビンはにこっと笑って、丸山くんと握手をした。

 

(笑顔、スビンのままだ……)

 

笑顔の可愛さも、芸能人ぶっていないところも、あの時のスビンと一緒だ。
変わったのは、身長差ぐらいじゃないかとさえ思わせる。

 

(スビン……!)

 

私は声にならない気持ちで、丸山くんとスビンが話すのを見ていた。

 

「こちらは?」

 

スビンが私たちに興味を持った。

 

「覚えてるか? 同じクラスにいた、宮島あかねと中野遥香。
女子だけど……記憶にないかもな」

 

その名前を聞いて、スビンの顔がぱぁっと、花咲いたように明るくなった。

 

「遥香!!」

 

「えっ!」

 

いきなりスビンは私を抱きしめてきた。
コンサート終了直後で、薄いTシャツ1枚だったスビンに抱きしめられ、
私は思わずドキっとする。

 

「おぼえてる? 遥香。会いたかった」

 

感情がこぼれるみたいに、まさに感無量な言い方で、スビンが私に言った。

 

「えっ、す、スビン……?」

 

「僕のこと、おぼえてる? スビン。2人でよくコウエンではなした」

 

「お、覚えてる……けど……!」

 

(あまりのことに頭がついて行かないよっ!)

 

「ぜったい日本にもどってくるっていって、アイドルになれば
もどってこれるとおもった。遥香に会うため」

 

(嘘……!)

 

ケータイ小説でもなかなかないぐらい、直球で甘い言葉をスビンはくれる。

 

「えっ、えっ……」

 

「遥香、会いたかった」

 

そう言って、スビンはもう一度私のことを抱きしめた。
周りのあかねたちは、その様子を見てすごく驚いていた。