韓流彼氏 ‐第4章:楽屋での疑惑
2010/03/24 00:00 - 韓流彼氏
★(前回までのあらすじ)コンサート後の楽屋で突然スビンに抱きしめられた遥香。
スビンは遥香に会うためにアイドルになったと言った。思わぬ直球の恋のアプローチに戸惑う遥香だったが…。
第4章:楽屋での疑惑
(何だか今でも、夢みたい……)
『MARIA』のコンサートに行って、バックステージパスで楽屋に行って、
……スビンに、会った。
スビンは私のことを覚えていてくれただけじゃなかった。
私が遥香だとわかると、抱きしめてくれた。
あまりのことにびっくりして、今でも現実が飲み込めていなかった。
(スビン、覚えていてくれた。しかも……私のために、アイドルになって
『MARIA』に入って、……日本に来てくれた、なんて)
嘘みたい。夢みたい。でもこれが、現実。
邪魔になってはいけないと思い、離れがたい気持ちや、あの頃の思い出を話したい
衝動を抑えながら、私はスビンの楽屋を後にした。
スビンとはメールアドレスを交換して、連絡が取れるようになった。
けれど、スビンから連絡はこない。そういえば『MARIA』の日本公演は3days。
昨日はまだ初日公演だから、コンサートの準備で忙しいのかもしれない。
でも、改めてこういう風になって思う。
(私……あれからもずっと、スビンのこと好きだったんだ)
恋ができないから小説でごまかしていたんじゃない。
スビンのことが、思い出ではなく、今でも好きだからだ。
だからいまだに信じられないし、まだ緊張している。
メールはまだ来ていない。
昨日、おつかれさま、会えて嬉しかった、ってメールを送った。
返事はまだない。忙しいから仕方ないと思う。
そこで、私ははっと気付いた。
(小説みたい……)
『24時のメール』の展開と、今の状況が全く同じなのだ。
(別に昨日、付き合いたいって言われたわけじゃない……けど)
でも、コンサートの後の楽屋、状況は似ている。
(会いたかった、って言ってくれるなんて嬉し過ぎるよっ!)
思わず、小説の今後の展開に自分を重ねて浮かれた気持ちになってしまう。
そんなことを考えて、幸せをかみしめていた時だった。
手の中でケータイがバイブで震える。
「わっ!」
送信元を確かめると、スビンだった。
(スビン……!)
メールを確かめた。
たどたどしい日本語で、メールが書かれている。
『あした 会いたい。コンサート終わったら、また楽屋に来てほしい。
昨日のパスではいれるから、来て』
「……!」
スビンからのメールだった。
昨日、抱きしめてくれたのは感動の再会が嬉しかったからだけじゃなくて、
……スビンも、もしかして、ずっと私のことを好きでいてくれた?
そんな望みがふっと胸に湧く。
スビンも私と同じ気持ちを抱いていてくれるのかもしれない、と思った。
私はそのメールに「絶対に行くから!」と返事をした。
『MARIA』の3days公演、インターネットで調べてみたところ、
最終日は昼間の回だけだったので、コンサートは16時には終わるようだった。
(でも打ち上げとかいろいろあるし……ゆっくりはできないかも……)
とりあえずはその時間を目安に、コンサートホールに向かった。
ステージも見たかったけれど今日はチケットもないし、パスを見せて楽屋の方に向かう。
私は楽屋の前の廊下に立って待っていた。
聞こえる歓声がざわめきに代わり、コンサートが終了したことが分かる。
(スビン、来るかな……)
ざわざわとスタッフやダンサーがステージから楽屋の方に向かってくる。
「遥香!」
私を見つけたスビンが、声を上げて手を振ってくれた。
「スビン!」
タンクトップ姿が凛々しいスビンは、私のところに駆け寄ってきてくれようとする。
「おつかれさま、3days成功おめでとう!」
そう言ってスビンに微笑みかける。
「ありがとう、遥香」
お礼を言ってはにかむスビンの表情は子供みたいで、
あの時のスビンを思い起こさせた。
その時だった。
「スビン! Beautiful!」
後ろから、なまった英語が耳に届いた。
「ミジン!」
振り返ると、すらっとしたアジア系の美人が、スビンを呼んでいた。
「すごかったわ! 感動した!」
その、……ミジンさんは人懐っこい笑顔でスビンに抱きついた。
「……!」
あまりにも自然に、スビンに抱きついたので私は言葉を失ってしまった。
そして驚くことに、スビンはその微塵の手を振り払うことなく、
笑ったまま抱きつかれるままになっていたのだ。
「わざわざ来てくれたのか、ありがとう!」
「スビン……」
拒否するそぶりすら見せないスビンに、私の心はそっと冷めていく。
(そうだよね……昨日の『会いたかった)は告白されたわけじゃないし……)
(こんなにかっこよくなったスビンに、彼女がいないなんてなんで思えたんだろう……!)
(ミジンさん、すごくきれいだし……芸能人かも……。
私なんかじゃ全然かなわないよ……!)
その後、私は楽屋に入れてもらったけれど、スビンと2人で話す時間はなかった。
なぜならずっと、スビンのそばにはミジンさんがいたからだ。
日本でのコンサートの準備があり、久しぶりに会ったというスビンとミジンは、
親しげにずっと話していた。
私はなんだかいたたまれなくなって、早々に楽屋から去ることにした。
「えっ、もう帰っちゃうの? まだ話そうよ、遥香」
スビンは引き留めてくれたけれど、ミジンさんの疑念の晴れない視線に
私は耐えられなかった。
(このトラブルまであの小説と同じだしっ……)
私はスビンの言葉を振り切って、会場を後にした。
